LOGIN服を作るため、トウマたちは一度服屋へと戻った。
トウマとウミはスキンカードをもらい、新しい服装にチェンジする。トウマは青いTシャツにデニムのズボン。ウミは緑色のロリータ服だった。その際、ニキが店員にラズリーフの毛皮を一枚ずつ渡していた。一枚ずつしか納品できず、とても非効率な作業である。
ニキとはパーティをまた組んでいた。
服屋を出て歩き、浜辺に戻ってくる。砂浜を歩く音がザクザクと鳴った。
波の前では、マーマン村長、ギースが待ってくれていた。その両手には青い液体の入った三つの小瓶が握られている。
先頭を歩いていたウミがギースに話しかける。
「ギースさん、お待たせしましたぁ」
「お前さんたち、やっと戻って来たか」
ギースが表情をひきしめて返事をした。ナマズのような髭がピクンと揺れる。
「遅れてごめんなさいです」
「いや、いい。それよりもわしの話を聞いてもらえるか?」
「ギースさんの村を助けて欲しいって事でしたよね?」<
ウミがこちらによたよたと走って来ていた。表情がぐしゃぐしゃに崩れている。 トウマが地面に膝をついて両手を開く。「ウミィイ!」「ご主人様ぁぁああ!」 瞬間、アイギスが横から飛び出した。ウミの身体をかっさらって、二人で地面に倒れる。「ウミちゃあぁぁああん!」「あ、アイちゃん!?」 ウミが驚いたように目を見開いた。 アイギスのモフモフとした尻尾が激しくぶんぶんと揺れていた。ウミの胸に顔をこすりつけて泣き叫ぶ。「ウミちゃあぁぁぁぁああああん!」「あ、アイちゃん、会いたかったですよぉ!」「ウミちゃんがいないとダメだもん! 僕、もう耐えられないもん!」「大丈夫ですよ、アイちゃん。ウミは、ウミはここにいますですよ?」 ウミがあやすように声をかけた。背中をさすってあげる。 アイギスが身体を巻き付かせる。「ずっと、ずっと、会いたかったんだもん」「私も、アイちゃんに会いたかったですよ」「いっぱい、いっぱい甘えないと、気が済まないもん!」「あはは。いっぱい甘えていいですよ」「ウミちゃあぁぁああん!」「よしよし、アイちゃん、よしよし」 アイギスの頭をウミが一生懸命に撫でている。 ジャンクアイランドの木々の開けた地面の上だった。空からは太陽の光が照らしている。いま西日になってきていた。涼やかな風が吹いて木の葉がさらさらと音を立てている。だけど乗り物や使い魔の死骸の山の景色は、あまり気持ちの良いものではなかった。配信不可エリアであり、ドローンは無い。 トウマは両手を開いたまま、ちょっと肩透かしをくらった気分だった。目の前ではアイギスとウミが再会の喜びを分かち合っている。 トウマは両手を下ろして立ち上がった。ふうとため息をつく。ベルフラウがトウマの隣に並び、むふと笑った。意味ありげにウインクする。 トウマは腕組みをしつつ、アイギスとウミの様子を見守った。 アイギスは尻尾の振動がお
――最高級、蘇生クエスト、たった一人でウミを倒す ジャンクアイランド。 その島の、木々が開けた地面の上だった。 辺りを包んでいた濃い霧は消えている。木の葉の隙間からは太陽の光が差し込んでいた。風に揺られて葉っぱが音を立てている。遠くには山が見えた。山? いや違う。武器や服、乗り物や使い魔たちの死骸が山となっているのだった。腕や足のちぎれた姿がなんとも痛々しい。その下の地面にはポーションの空き瓶が転がっていた。 少し離れたところには白い着ぐるみ姿のウミがいて、左手を腰に当てている。右手の剣で地面を突いていた。挑戦者を待っているようだ。 トウマたちは顔を向け合って話し合った。「みんな、俺が行く」とトウマ。「あたしが行くわ」とベルフラウ。「僕がやる!」とアイギス。 三人が立候補していた。 トウマは小刻みに首を振って、懇願するように声を絞り出した。「ベルフラウ、アイ、ここは俺にやらせて欲しい」「ダーリン、大丈夫なの? ウミちゃん、強いわよ?」 ベルフラウが心配そうな目つきでつぶやいた。 アイギスがぶんぶんと首を振った。「僕がやる!」 その瞳には、絶対に自分が救い出すのだという決意が宿っている。 トウマはアイギスにゆっくりと歩み寄り、その肩に両手を置いた。「アイ、頼む。俺にやらせてくれ」「ダメ!」「アイ。俺にウミを、迎えに行かせて欲しい」「ダメ!」「……頼む」 トウマの顔に苦渋がにじむ。 晴恋が助け船を出した。「アイ。だんちょはウミちゃんの主人だから、ここは任せよう?」「でも、負けたらどうするの!?」 アイギスの耳が怒ったようにピンと立っていた。 トウマはその場に両足をつく。頭を下げた。「頼む……アイ。必ずウミを連れ帰ってくる」「&helli
ジャンクアイランドに船が着岸する。 島には、ガラクタが山のように積み上げられている。ボロボロになった武器や服、手や足のちぎれた使い魔や乗り物、戦車やロボットまであった。まるでゴミの山である。このゲームではロボットを仲間にできるのだろうか? そんな疑問がトウマの脳裏には浮かんだ。 小さな島だった。島は濃い霧に包まれている。空中を飛んでいた配信用ドローンが透明になって消えた。どうやらここは配信不可エリアのようだ。 着岸すると、操舵士のおやじさんが錨を海に降ろした。 みんなで輪になって、それぞれに適したバフ料理を食べていた。島に行けば戦闘が多いのかもしれない。準備は入念にするべきだった。 魚介ラーメンをすすりつつ、トウマが口を開く。「みんな、ここからは用心してかかってくれ」「本当にウミちゃんがいるのかしら?」 ベルフラウが疑問そうに言って、カレーライスのカツをむしゃむしゃとかじった。 アイギスの鼻がひくひくと動く。「いる! かすかだけど、ウミちゃんの匂いがする」「アイ、分かるの?」 晴恋が聞いた。 アイギスがこくりと頷く。 トウマがみんなに視線を配る。「みんな、何としてでもウミを見つけるぞ」「当たり前!」 アイギスが興奮したように鼻息を荒くしていた。 食事を終える。 船にはタラップがあった。それをつたって地面へと降りる。トウマとベルフラウを先頭に島の内部を進んだ。だけど霧が濃い。モヤモヤとしており、3m先が見えなかった。何が起こっても良いように、みんなが武器を手に持っていた。 ドンと音がした。 ――蘇生クエスト、ウミの6つのクイズに全て正解する 頭上の表示を見て、トウマが顔を険しくする。「何だ?」「クイズに答えるって?」 ベルフラウが首をかしげている。 その時だ。 前方に光の柱が立った。光の柱の中から、小悪魔のような角と翼を生や
船が大きく縦に揺れた。 晴れ空が途端にどんよりと曇る。雨が降ってきていた。波は荒れ狂い、海の色が黒ずんでいく。落雷が発生して空がゴロゴロと鳴っている。嵐となった。「クラーケンが出たぞー!」 操舵室の扉を開けて、NPCの操舵士のおやじさんが叫んでいた。 トウマたちが前甲板へと駆けつける。船の舳先には巨大な青黒いイカのようなモンスターが乗り上げていた。不気味な瞳でこちらを睨みつける。船を転覆させようとしていた。 ドンと音がした。 ――クエスト、クラーケンの撃破:初めて見るタイプのボスだな。:中ボスだからそんなに強くないはず。:誰か! 釣りシステムの入手方法を知っている人はいませんか!? トウマは腕を組み、いたって焦らずに吐息した。(……ふむ) 馬車の旅では途中、敵が出てくる。船旅も同じようだった。 全員がパーティをすでに組んでいる。 ベルフラウが左手のひらを掲げて唱えた。「メイクアップ」 ステータス画面からみんなが武器を取り出している。 ニキが叫んだ。「みんな、連携を取って戦うさ!」「連携?」 ベルフラウが振り向いて唇をすぼめる。 その時、クラーケンが大きな足を上から下へと振り下ろした。身体が赤いオーラを帯びている。足が叩きつけられると同時に、大きな雷が海に落ちる。辺りが稲光に包まれた。 轟音。 光がやむと、グラスオース号の前甲板には12体のゾンビが出現している。ゾンビは船乗りのような白い服装をしており、マリンキャップをかぶっていた。だけどその服はボロボロだった。ここら一帯で死んだ船乗りたちをクラーケンが蘇らせたようだ。 ニキが声をかけた。「トウマさん、連携の指示を頼むさ」「……いきなりだな」 連携など練っていない。だけど良い提案だと思った。五人と一頭でがむしゃらに敵へ突
現実の昼食を終えてゲームに戻って来ていた。 今、トウマ、ベルフラウ、ニキは釣りをしていた。 晴恋とアイギスは釣りシステムを開放させていないため、見ているだけである。もちろんキャルル丸もだ。 木製の後甲板。船のエンジンがゴゴゴという音を響かせている。波しぶきの音も大きく、ざぶんざぶんと鳴っていた。トウマたちの上空にはカモメが集まってきており、釣れた魚を狙っている。鳴き声がこだましている。カモメが寄ってくるごとにアイギスが槍で追い払ってくれていた。 高級釣り竿を両手に持ちながら、トウマは粋な表情を浮かべる。(大漁だ!) 魚は次々にヒットしていた。アジ、シロギス、メバル、タチウオ、様々な魚を釣り上げる。五分に一匹は釣れていた。木製の床には釣れた魚が並べられており、幽霊猫のトビウオがむしゃむしゃと食べていた。 隣にいるニキが羨ましそうにこちらを見る。「トウマさん、その高級釣り竿を、ちょっと貸してくれさ」 ニキの釣り竿は初心者の釣り竿である。木の棒に糸と針がついただけの粗末な作りだった。獲物がかかる確率は低い。 トウマは微笑を浮かべつつ首を振った。「ダメだ! 今、良いところなんだ!」「ちょっとだけだって。俺っちも、もっと釣りたいよ」「もっと釣りたければ、高級釣り竿を釣るべきだな」「なんだよぉ。ケチだなー」「いま良いところなんだ! 魚がびゅんびゅんだ!」 ふとトウマの釣り竿の先がキュッとしなる。また獲物がかかったようだ。「これはデカいぞ!」 トウマがリールを巻く。糸の先のルアーについていたものは真鯛だった。:真鯛来た!:ピチピチだな。:トウマさん、調子良いですね。 トウマはるんるんとした気分で、リールを巻いて魚を引き上げる。ルアーから真鯛をはずして両手に持った。でかい! 50cmはありそうだ。「よっしゃあ!」 思わず声を上げてしまった。 トビウオが物欲しそうにこちらを見る。
グラスオース号が出航する。 アストラブール町で購入したばかりの船だった。 波しぶきを立てて、大海原へと船が進んでいた。魔導具のエンジンがゴゴゴと低い音を立てている。太陽の光に照らされて海面がキラキラと光っていた。カモメたちがクエーと鳴いている。まるでこれからの旅を祝福してくれているかのようだ。潮の香りがやけに濃かった。そして風が強い。 操舵士であるNPCのおやじさんが船の舵を切ってくれている。ジャンクアイランドへの航海マップは渡してあった。 そしてこれは余談だが、王都のある大陸へ行く際の航海マップは、おやじさんがすでに所持しているらしい。 船の名前にはギルドの名前がそのまま付けられていた。先ほどみんなで決めたことである。:行けー、グラスオース号w:目指すはジャンクアイランドですね。:ウミちゃぁぁん、いま行くから待っていてね。 船の前甲板の欄干に背中を預けてトウマは座っていた。その手にはアビリティの書がある。電子思念体を倒した時に入手したものだった。隣にはベルフラウがいる。 二人の服装は結婚式の正装から元に戻っていた。 今、トウマがアビリティを習得しようとしている。「なあ、ベルフラウ。本当に無料で、俺がこれを使ってもいいのか?」「いいのよ。だって、電子思念体を倒したのはトウマだし。あたしは指輪をもらっているから。それに、あたしはアビリティをもう覚えているし」「そうか。じゃあ、使うぞ?」「どうぞ?」「ありがとう」 トウマはステータス画面を見て、キーワードをつぶやく。「アビリティ解放」 金色のカバーの分厚い本が白い光を帯びて消える。アビリティを習得した。ステータス画面で能力をチェックする。 アビリティ、スイッチヒットポイント……HPが50%以下になると次の被弾時に相手のHPと自分のHPが入れ替わる。 アビリティ必殺技、フィールドクラック……ヴァルを消費してフィールドにご都合主義を
それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。 「ユウマ、起きて起きて」「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」「駄目。会社に行く時間よ」「ぐぐー、ん、朝?」 瞳を開く。目の前には妻の優しい笑顔があった。ユウマはダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。 「ふわあ」「あら、大きなあくびですこと」「朝食は?」「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」「ああ、分かった」 クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャ
ついに邪蛇狩りが始まった。 満天の空の下。山の上の地面の土は硬く、背の低い雑草が絨毯のように生えている。トウマとウミは、大きな岩の後ろに隠れて山頂の様子を見守っていた。今までずっと登山して来たのだ。 ちなみに先ほど夕食を食べた。昼と同じカレーライスである。もう飽きた。 山頂にはキャンプファイヤーが焚かれているようで、その煙がモクモクと上がっている。炎の灯りに照らされて、人々の戦う様子がよく見えた。 邪蛇、グランツエル。そいつは紫色に輝く肌をした大蛇であり、電車一両ぶんほどのサイズがありそうだ。まるで龍のように美しい。右に左にうねって地面を這い、人々に襲いかかる。 人々の先頭にいる
森の道へと入った。 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。 森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。 可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて! 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。 「グラヴィティライン」 トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。 「がうばうっ!」 走っていたテラーウルフは前のめりに
草原の中心に、黒い渦を巻いてテラーウルフが出現する。残忍な顔つき、漆黒の体毛、巨大な白い牙。その圧倒的な存在感に、トウマの背筋から冷や汗が伝った。 テラーウルフが高々と吠える。 「ガアルルルゥゥッ!」 ドンと音がして空中に文字が表示された。 ――クエスト、テラーウルフの撃破 「ボスだ、逃げろ!」「俺は死ぬ訳に行かないんだー!」「私はせっかくレベル3に上がったんだからね!」 ウミがすぐに反応した。その表情は恐怖に彩られており、モフモフとした尻尾がピンと立っている。勢いよくこちらを振り向いた。 「ご主人様、どうすれば!?」「ウミ、動くな」 トウマは状況を冷静に分析する







